心不全とは
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されており、近年、入院数、死亡数ともに年々増加しており、社会的にも重要な疾患として注目されています。心不全にはさまざまな原因があり、その原因疾患を適切に診断し、治療を行うことが、心不全治療の大きな柱となります。
心不全の病期と治療
心不全の治療では、患者さんの「病期(ステージ)」を把握することが非常に重要です。心不全はステージA〜Dに分類されます。
心不全を発症する前の段階(ステージA・B)から高血圧や狭心症などの基礎疾患を積極的に治療することで、心不全発症を未然に防ぐことも心不全治療の1つになります。
いったん心不全を発症すると(ステージC・D)、何度も増悪(症状の悪化)と寛解(症状の安定)を繰り返し、徐々に進行していきます。この悪化のスピードを少しでも緩やかにすること、そして増悪時には速やかに治療を強化することが治療の目標となります。
当院での治療体制
当院では心不全で入院となった患者さんの多くはCCU(集中治療室)で初期治療を行います。症状が安定した後は、一般病棟に移り、お薬の調整や心不全に関する生活指導を行っています。
慢性期(心不全が安定している時期)には、さまざまなお薬を組み合わせた薬物療法が中心となります。現在、慢性期の薬物療法に対し、さまざまなお薬が出てきており、これらを「追加する」だけでなく、「適切な量まで増やす」ことも非常に重要です。また、原因疾患に応じた治療薬の導入も必要に応じて行っています。
薬物療法だけでは改善が難しい重症の心不全患者さんには、デバイス(機器)を用いた治療が適応になることがあります。再同期療法(CRT-D:両心室ペーシング機能付きの植え込み型除細動器)や経皮的僧帽弁接合不全修復術(M-TEER:僧帽弁閉鎖不全症に対して行うMitraClip®などを用いた僧帽弁へのクリップ手術)などがそれにあたります。すべての患者さんに適応があるわけではありませんが、適切な患者さんに行うことで心不全入院を減らすことができる治療です。
またさらに重症化した際には、心臓ポンプカテーテル(Impella®:心臓を直接補助する小型ポンプ)や人工心肺補助装置(ECMO:心臓と肺の働きを体外でサポートする装置)といった補助デバイスも心不全治療には不可欠です。治療によっては一刻を争うものもあり、チームで日々適応を検討しながら治療にあたっています。
チーム医療
心不全治療や生活指導は医師一人でできるものではありません。塩分制限などの食事療法や適切な運動療法など多岐にわたる指導が必要であり、看護師や薬剤師、理学療法士、栄養士、心臓リハビリテーションのスタッフなどさまざまな職種が連携して担っています。近年、「心不全療養指導士」という専門資格が設けられました。当院でもさまざまな職種が資格を取得し、より専門性の高い指導が患者さんに提供できる体制を整えています。
心筋症の診断と治療
心不全の原因の1つに「心筋症」があります。心筋症にはさまざまな種類があり、原発性心筋症(肥大型心筋症や拡張型心筋症など)と二次性心筋症(虚血性心筋症や心サルコイドーシス、心アミロイドーシスなど)に大きく分けられます。診断には心臓超音波検査・心臓MRI・心筋生検を含むカテーテル検査などを組み合わせて行います。心不全で入院された患者さんでは急性期の症状が落ち着いた後にこれらの検査を実施しています。また他院で治療後に診断目的でご紹介いただくケースも多く、短期のカテーテル入院にも幅広く対応しています。
診断が確定すれば、疾患に応じた治療を開始します。心アミロイドーシスや心サルコイドーシスのように治療法が確立されている疾患もあります。近年では、心アミロイドーシスや閉塞性肥大型心筋症に対する新薬も登場し、これまで治療選択肢が少なかった患者さんにも新たな選択肢が生まれました。また、薬物療法だけでなく、閉塞性肥大型心筋症に対するカテーテル治療(経皮的中隔心筋焼灼術)や外科的な中隔心筋切除術など、非薬物療法も当院では積極的に行っています。患者さんお一人おひとりの状態に応じた最適な治療法を提示し、ともに選択していくことを大切にしています。
基礎研究について
心不全の発症・進行には免疫細胞や炎症反応が深く関与しています。そのため当科では基礎研究にも力を入れて取り組んでいます。現在は主にSGLT2阻害薬が免疫細胞の動き(遊走)や心筋の炎症・線維化をどのように抑制するかを解析し、心不全の新たな治療機序の解明を目指しています。患者さんへ
心不全は長く付き合っていく病気です。私たちは患者さんの心不全ステージと原因疾患に合わせた治療・生活指導を行い、患者さんの健康寿命を延ばしていくことを目標に日々診療にあたっています。どんな小さな不安や疑問もお気軽にご相談ください。
若手の医師・医学生の皆さんへ
心不全治療は薬物療法・デバイス治療・チーム医療・最新の診断技術が融合した、やりがいのある分野です。そして、「疾患を診るにとどまらず、患者さんを診る」医療を実践できる分野でもあります。これからも心不全治療は進化し続ける領域です。私たちと一緒に、患者さんに質の高い医療を届けていきましょう。志ある若手の先生方・医師を志すみなさんのご参加を心よりお待ちしています。